塑像の実習が始まりました

10月24日から、医科歯科大学歯学部2年生に向けての「医療と造形」の授業が始まり、その主要な部分である塑像の実習が始まりました!昨年度までのノリを継続させて、今年もまた参加させてもらうことにしました。関係者の皆様ありがとうございます。

24日から6回が2016年度の前半で、AとB組が受講します。最初は受講者全員が教室に集まり全体のガイダンスを受けます。そこにひっそりと潜り込んで静かに聞こうと思ったら、講師である藤原彩人先生に、いきなりこの授業の立ち上げにかかわったものとして挨拶せいということで、前に出て教養部での選択科目「芸術」の設置、その後GPとして「医療と造形」という授業科目の立ち上げに参画して実施に移したこと、定年になって受講者としてこの塑像の実習を受けてきたこと、面白くてやめられない、みんなも面白いと感ずるよ、よろしくお願いします、と語り掛けました。特に視点を変えて物を観察することの重要さを強調しました。もう7年目になりますが、これはいつも感じることです。

そのあとはスライドを使って講師の角田優先生と藤原彩人先生の自己紹介、それぞれ作品を見せながら制作のコンセプトなどが語られました。あとは、なぜ医療と造形を学ぶのか、今後の予定などが続きますが、省略します。でもって、アトリエ(といっても普通の教室に大きめの流しなどを付け加えたものですが)へ移動。いよいよ始まりです。ワクワク。

今日はモデルが入らないので、学生が順番にモデルとなってモデル台に座り、5分間でスケッチします。4Bくらいの炭の多い柔らかい鉛筆とゴム消しの使い方の簡単な説明を受け、スケッチブックに向かいます。5分はあっという間に過ぎてしまいます。7回繰り返したのですが、途中で藤原先生がクロッキーの描き方を熱弁。
20161024-120161024-2うーん、こんなにささっとうまく描けません。
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7回繰り返して全員がモデル経験をしました。5分間は描く方には短いけれど、じっと座ってポーズをとる方には長く感じられるでしょうね。でも次回から来るモデルさん達はこれを20分やるのです。それを体感するためでもあるのでしょうね。終わったあと、学生さんたちは、スケッチを見せ合い、ワイワイと盛り上がっていました。
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その後は心棒作りです。下のように材料が用意されています。
20161024-5で、実際の小割材と棕櫚縄を使って塑像板に心棒を立てる方法を伝授。下の写真、なんで喉元を二人で指さしているのか、忘れました。
20161024-620161024-720161024-820161024-9横木はこういう風にしっかりと、横木に体重をかけても動かないようにね。力を込めて棕櫚縄を巻き付け、みんな心棒が立ちました。
20161024-10さあ、次回からはここに粘土を盛り付けていきます。楽しみですね。

終わった後、講師控室で二人の講師の先生と歓談、これがまた楽しいのです。藤原先生は東大の総合研究博物館とのコラボについて話してくれました。これも興味深そうですね。


受難、悲素、水神、、

このところ帚木蓬生の著作を読んでいます。タイトルにあるように、「受難」を読んで、続いて「悲素」、さらに「水神」と進み、今は「天に星、地に花」を読んでいるところです。いずれの巻も、かなりのボリュームのある本ですが、読みごたえがあります。

「受難」は、韓国で起きた高校生を多数載せた大型フェリーが沈没した事件と、iPS細胞と3Dプリンターにより水死した女子高校生のレプリカを作成するという2つの事柄を軸として、韓国と日本を舞台に物語が展開していきます。
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帚木蓬生さんは福岡出身の精神科医です、初めは東京大学の仏文を出てTBSへ入社。その後、2年で退社して九州大学医学部に再入学、卒業して医師となった経歴の持ち主で、フランスへ留学経験があります。フランス留学、出身地である福岡という土地、医師という職業を反映した作品を、これまで一年に一作というペースで切れ目なく発表していて、それぞれの作品がいろいろな意味で考えさせられ、感動を与える作品となっています。

最初に読んだのが確か「十二年目の映像」だったと思うのですが、これはテレビ局を舞台に東大闘争の安田講堂占拠事件の映像の存在とテレビ局内部のさまざまな問題点を題材にした作品で、東大闘争のころ東大4年生で身近に感じられる出来事が題材だったので細かな内容は記憶していませんが読んだことはよく覚えています。次にの読んだのが多分「三たびの海峡」で、これは朝鮮半島から九州の炭鉱へ連れてこられて石炭堀に従事させられた主人公が(これが一回目)、その後、二回海峡を渡る物語で、戦争と人種差別を描いています。福岡という土地柄からか、著者はこのように朝鮮半島に対して思い入れが多分あるのでしょう、済州島近くの独島付近で起きたフェリー沈没とその後の韓国の対応を許せないという感情を持ったものと思われます。この事件とiPS細胞の利用という問題と絡めて、話が進んでゆきます。

次の「悲素」は、和歌山毒物カレー事件を題材にしたもので、事件の捜査に協力をした井上尚英先生から鑑定資料一式を託され、読んでみるとあまりに知られていない事実が多いので、小説にしたというものです。
%e6%82%b2%e7%b4%a0%e8%a1%a8%e7%b4%99和歌山県警が上記の井上教授に依頼して、保険金詐欺のために生命保険に加入させられ、その後、ヒ素を盛られた中毒患者をすべて診察してもらい、克明な記録を残していることが、保険金額の多さとともに丁寧に書かれています。井上教授は捜査の段階から裁判での証人としての出廷を含めて、長期にわたって福岡と和歌山を往復しています。しかしながら、和歌山毒物カレー事件の裁判では、これらの保険金詐欺とヒ素による中毒患者のことを切り離し、カレー事件だけを有罪にしたことを著者は憤っているのです。著者は精神科医としてギャンブル依存症などに関する著書がありますが、ここでは毒物を使って成功すると病みつきになることも歴史的な例を挙げて述べています。現在でもカレー事件の死刑囚は冤罪を訴えて再審請求をしていて、ネット上でもそれを支援するような論調のページが多数みられますが、考えさせられます。違う視点で書かれたこの本も読んでみてください。

「水神」 江戸ものが好きだと書いたことがありましたが、これは江戸下町での人情話とは全く異なる江戸時代の著者の故郷での実話をもとに書かれたお話で、筑後川の水を、堰を作って水路で水の乏しい地域に導くまでの農民と庄屋たちのお話です。その地域の言葉で会話が書かれているのが特徴ですが、読み進むうちに違和感は全くなくなります。
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「天に星。地に花」 水神の時代から少し下った江戸時代の、やはり同じ地方のお話です。今度は庄屋の次男坊が疱瘡にかかり、蘭学を学んだ医師に助けられ、自らも医者になるために住み込みで修行するという話です。これを書いている時点ではまだ完読していないのですが、著者の考える、医師の倫理ということを強く感じられる内容です。主人公の庄十郎は、先生から医師の心得は「丁寧、反復、婆心」であり、その前に「貴賤貧富にかかわらず」が付くと教えられます。婆心というのは聞きなれませんが、「度の過ぎた親切ではなく、心を込めた親切」だそうです。現在読んでいるところで、主人公の庄十郎は修業時代がほぼ終わり、これから独り立ちをしていくところに移ります。どのように展開するか楽しみです。そうそう、本の中では病気はもちろん当時の名前(腹瀉、風気など)で呼ばれ、施薬される薬も漢方薬で、八解散とか五味子という名前がたくさん出てきます。こちらはなじみがないのであまり深く考えずに読んでいます。
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これらの前には、半藤一利の「昭和史(戦後編)」を読みました。「昭和史1926-1945」はすでに読んでいたので、読み足しました。また「B面昭和史」も読みました。今、自分のことを振り返っているので、昭和史(戦後編)はとても興味深く感じました。
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もう一冊は「最期の秘境東京藝大:天才たちのカオスな世界(二宮敦人)」です。ものすごく面白い本でした。カオスな世界だけでなく、改めて芸術と科学の近さを感じさせてくれるものでした。一読を勧めます。
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まだまだ読んだ本はたくさんあるのですが、長くなるので今日はここまで。何はともあれ、「読書は楽しい!」ということ、読書の秋にふさわしい書き込みですね。

文字ばかりでは華がないので、それぞれの本の表紙を間に挟みました。図版はアマゾンからダウンロードしてお借りしています。